日本人の死亡原因となる約6割は生活習慣病です。その予防のため、40歳から74歳までの公的医療保険(国民健康保険など)の加入者に対し、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の健診を行うことを「特定健診」と呼んでいます。一般的には「メタボ検診」といった用語のほうが浸透しているかもしれません。この特定健診の結果、メタボリックシンドロームの該当者もしくは予備群で再検査が必要となる人に対して、管理栄養士などが指導することを「特定保健指導」と言います。今回は、特定保健指導を行う管理栄養士について、どのようなことが求められ、指導には何が必要となるのかなど、分かりやすく解説していきたいと思います。
特定保健指導における管理栄養士の役割は、生活習慣の改善が必要な方に対して、食生活などの見直しをはじめ、適度な運動や十分な睡眠を取ることを指導することで、糖尿病、虚血性心疾患、脳血管疾患などの病気を予防したり、重症化や合併症などを防いだりすることを目指します。生活習慣病の改善には、生活習慣病を発症する前の段階において、早めに対処することがとても重要です。また、特定保健指導は、管理栄養士、保健師、医師が行うことになりますが、食事療養などの観点からも、管理栄養士が担当することの役割は大きいと言えるでしょう。ところが、特定保健指導には1つ大きな問題を抱えています。それは、特定検診を受けた後、特定保健指導が必要であるにも関わらず、特定保健指導を受けない方がとても多いことです。厚生労働省「2017年 特定健康診査·特定保健指導の実施状況」によると、特定健診を受けた人の割は全体の53.1%で半数以上ですが、特定保健指導が必要な対象者の実施状況を確認してみると、特定保健指導を終了した人の割合が全体のわずか19.5%であることが分かりました。過去3年の推移を確認しても特定保健指導を終了した人は20%以下ですが、主な理由としては「面倒」「時間が取れない」などが挙げられているそうです。こうした状況を踏まえ、保健所などで働いている管理栄養士は、特定保健指導の対象者の方に電話をかけたり、直接自宅に訪問したりするなど、積極的な注意喚起や呼び掛けすることなどがとても大切な役割になっているのです。
[特定健診の実施状況] |
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2017年/28,582,798(特定健診を受けた人の割合53.1%) 2016年/27,559,428(特定健診を受けた人の割合51.4%) 2015年/27,058,105(特定健診を受けた人の割合50.1%) |
[特定保健指導が必要な人] |
2017年/4,918,207(特定保健指導が必要な人の割合17.2%) 2016年/4,690,793(特定保健指導が必要な人の割合17.0%) 2015年/4,530,158(特定保健指導が必要な人の割合16.7%) |
[特定保健指導を終了した人] |
2017年/959,076(特定保健指導の終了者の割合19.5%) 2016年/881,183(特定保健指導の終了者の割合18.8%) 2015年/792,655(特定保健指導の終了者の割合17.5%) |
出典:厚生労働省「2017年度 特定健康診査·特定保健指導の実施状況」
「メタボ検診」では、身長、体重、血液検査などのほか、お腹まわりをメジャーで計測することは多くの人がご存知のことでしょう。しかし、そもそも「メタボ検診」とは、いつからなぜ行われるようになったのでしょうか。メタボリックシンドロームは、運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣によって起こりますが、潜在的に高血圧や糖尿病、脂質異常症が生じている状況で、無症状の間にも慢性的に動脈硬化が進行する特徴があります。
現代においては、糖尿病、脂質異常症、高血圧、大腸がんや肺がん、脳卒中、心臓病などによる死亡率が高い訳ですが、たとえば、カロリーの過剰摂取は糖尿病につながり、塩分の過剰摂取、肥満、運動不足などが高血圧につながる可能性がありますので、2008年4月からメタボリックシンドロームの該当者及び予備群の減少に注力するようになりました。メタボ検診は、腹囲を測定して内臓脂肪の状況を推定しますが、男性は85cm以上、女性は90cm以上の腹囲をメタボリックシンドローム診断の必須項目としています。他にも、血圧は130/85mmHg以上が1つの指標となっており、血液検査では空腹時の血糖を測定して、その結果が110mg/dl以上の場合には陽性とします。また、中性脂肪やHDLコレステロールの血清脂質も測定しますが、それぞれ150mg/dl以上もしくは40mg/dl未満の場合には陽性となります。このように、血圧、血糖、血清脂質値を参考にしながら、特定保健指導が必要かどうかを判断するのが一般的な方法として知られているでしょう。そして、特定保健指導をする方に対しては、個々人の特性やリスクに応じた支援が必要となるため、該当者は「動機付け支援」「積極的支援」に分けて指導しています。「動機付け支援」は、個別面接またはグループ支援を原則1回は行い、対象者が自らの生活習慣を振り返ることで、行動目標を立て、実際の行動に移し、その生活が継続できることを目指した支援を行います。その6ヶ月後には、電話·eメール·ファックス·手紙等を利用して評価を行うようにしています。「積極的支援」は、動機付け支援を行ったうえで、3ヶ月以上の定期的且つ継続的な生活改善のための支援を行い、6ヶ月後には評価を行います。
前述した通り、現状は特定保健指導を終了した人の割合が20%以下と少ないのが現状です。
そのうえ、対象者の健康状態を把握することに加え、対象者が自ら生活習慣を改善するための意識を持ってもらうためには、栄養学に基づいた専門的な知識だけでなく、病気に関する幅広い知識や、指導対象者との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力を高めることが必要不可欠になるでしょう。これに加え、対象者が生活改善を継続できるようにするため、モチベーションを維持するための工夫や、問題意識を高めるための動機付けが大切なので、カウンセリングやコーチングの知識や経験も役立ちます。なお、「特定保健指導担当管理栄養士」になるためには、基本的に日本栄養士会の認定が必要となりますので、次のパートで説明していることを把握しておきましょう。
「特定保健指導担当管理栄養士」になるためには、単に対象者への種々の情報提供を行うのではなく、対象者の生活習慣を是正するための行動変容を実現することが必要で、質の高い指導能力が求められています。そのため、「特定保健指導担当管理栄養士」は、日本栄養士会による「特定保健指導実践者育成研修」または「保健指導担当者研修会」の修了し、一定以上の資質と活動実績を備えた会員を日本栄養士会が認定する仕組みで資格が得られます。現在、認定者総数は145人(平成30年度現在)となりますが、審査に必要な申請資格は次の通りです。
審査に必要な申請資格 |
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1.管理栄養士であること 2.日本栄養士会生涯教育制度に参加し、自己研鑽をしていること 3.日本栄養士会および都道府県栄養士会が実施する「保健指導担当者研修会」を修了していること |
出典:公益社団法人 日本栄養士会
なお、認定までの流れとしては、審査に必要な書類と、保健指導に関する事例5つ以上(事業事例、指導事例など)を提出し、審査結果に合格した後、日本栄養士会会員10,000円(税別)、非会員20,000円(税別)の支払いを完了する必要があります。認定を受けてから5年間を有効期限として、更新は一定のフォローアップ研修を受講した上で更新のための審査を受ける必要があります。