読者の皆さんは、在宅訪問管理栄養士の存在をご存知でしょうか。
在宅訪問管理栄養士とは、平成23年度(2011年度)から開始した比較的新しい認定制度となりますが、公益社団法人の日本栄養士会と全国在宅訪問栄養食事指導研究会(現・一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)によって運営されており、在宅療養者のための疾患、病状、栄養状態などに適した栄養食事指導及び支援をする管理栄養士のことです。
日本は他の国に比べても高齢化率が高いため、今後は在宅療養者も増えていくものと考えられています。しかしながら、在宅訪問及び対応に関するスキルアップが必要となり、在宅訪問栄養食事指導が行える管理栄養士は意外にも少ないのが現状です。こうした背景のもと、在宅訪問管理栄養士の認定制度は、在宅訪問栄養食事指導がしっかりと行える管理栄養士の育成を目指そうと開始されました。在宅訪問栄養食事指導ができる管理栄養士を増やしていくことで、「療養者が在宅での生活を安全かつ快適に継続し、ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた生活の質が向上すること」を狙いとしています。現在、在宅訪問管理栄養士は、全国の医療機関などで活躍しており、平成29年までの認定者数は849人に達しましたが、高齢化に伴う必要性を考えればまだまだ不足しています。
厚生労働省は、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるようにするため、介護保険制度と医療保険制度の両分野において、地域内で助け合う体制を整える「地域包括ケアシステム」の推進に力を入れています。介護保険の保険者である市町村や都道府県などが中心になり、戦後のベビーブームの時代に生まれた団塊の世代が75歳以上を迎える2025年を目途に、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が切れ目なく一体的に提供されることを目指した仕組みです。
こうした取り組みの影響もあって、今後自宅で生活をする高齢者が益々増えていくことが予想されているのです。そして、高齢者が自宅で生活する際、その方の生活環境にもよりますが、介護や支援する方がいなければ食事や栄養バランスも取りにくく、食生活によって健康面に影響が出ることを防がなければなりません。このような状況を改善するためにも、在宅訪問栄養指導が必要になると考えられています。
在宅訪問管理栄養士として働く場合、医療保険が適用される病院、クリニック、診療所もしくは、介護保険適用の介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設、認知症対応型共同施設、通所施設、在宅介護支援センター、特定施設(ケアハウス、軽費老人ホーム、有料老人ホーム)などが挙げられますが、いずれも職場の医師の指示のもと、患者に対して訪問栄養食事指導を行います。同様に、保険制度の関係から、訪問栄養食事指導は、医療保険適用サービスとなる「在宅患者訪問栄養食事指導」もしくは、介護保険適用の「居宅療養管理指導」の2種類に分けられています。職場としては、いずれかの事業所に従業していることが基本的には必要ですが、フリーランスの管理栄養士も指定事業所と契約して訪問栄養食事指導を行うことができます。このほかにも、最近は薬局が在宅訪問栄養指導のための管理栄養士を採用するケースが徐々に増えてきており、在宅訪問管理栄養士の活躍の場は広がりつつあります。
在宅訪問管理栄養士の職場となる施設一覧 | |
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① 医療法に基づく、病院、診療所(病院・診療所付属のリハビリテーション施設を含む) ② 老人福祉法に基づく、老人福祉施設(老人福祉センター) ③ 介護保険法に基づく、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型 医療施設、認知症対応型共同施設、通所施設、在宅介護支援センター、特定施設(ケアハウス、軽費老人ホーム、有料老人ホームなど) ④ 地域保健法に基づく、保健所、市区町村保健センターや市区町村役場 ⑤ 母子保健法に基づく、母子保健施設 ⑥ 薬事法に基づく、薬局 ⑦ 管理栄養士・栄養士養成施設 ⑧ 障害者総合支援法に基づく、障害者支援施設 ⑨ 児童福祉法に基づく、児童福祉施設 ⑩ その他、日本在宅栄養管理学会理事長、在宅訪問管理栄養士認定制度運営 員長が認めた者 ※学校(保育園、幼稚園等も含む)ならびに産業の給食管理は対象外とする。 出典:一般社団法人日本在宅栄養管理学会 |
次は、在宅訪問管理栄養士の仕事内容について、もう少し詳しく説明していきましょう。
具体的な仕事内容としては、体重管理、間食の管理、誤嚥予防、塩分の過剰摂取の改善、病態の改善、偏食の改善などが挙げられますが、療養者の自宅に訪問して食生活をチェックした後、問題がある部分の改善策を提案します。1回の訪問では、約30~60分程度が目安となりますが、こうした限られた時間の中で、身体計測、医療情報の把握、問題点の整理、食事内容の把握、必要栄容量の算出、主治医の許可、療養者の同意などを得て栄養指導に当たります。
栄養指導については、高齢者の場合、低栄養や食べ物を上手に飲み込めない摂食嚥下障害といった問題に対処することも多いため、専門的な知識もさることながら、療養者に適した料理のレシピを提案する配慮も忘れてはいけません。また、療養者だけでなく、その家族とのコミュニケーション、かかりつけの主治医、ケアマネジャーなどとも連携を取りながら、療養者の様々な課題や現状を引き出します。更には、高齢の人でも調理しやすく、安全な調理法を指導する場合もありますので、調理技術も必要になります。
在宅訪問管理栄養士の待遇について調べてみたところ、現時点では、在宅訪問管理栄養士の資格を取得すると賃金アップや資格手当が支給されるところは少なく、求人情報なども多くはないのが現状です。しかし、前述したように、政府が「地域包括ケアシステム」の実現を推進していることもあり、今後は在宅訪問管理栄養士の需要拡大とともに、待遇が良くなる可能性は高いでしょう。管理栄養士の方は、先を見越して在宅訪問管理栄養士の認定を受けておくと、転職する際などにもアピールできるポイントが増えるので、仕事の幅もぐっと広がる可能性が出てくるはずです。
在宅訪問管理栄養士の認定試験を受験するためには、所定の学習プログラムを必ず履修する必要があり、認定試験に合格した後、在宅訪問栄養食事指導実施・実践症例検討報告レポート審査を受けて合格しなければなりません。所定の学習プログラムの1つとなる事前学習は、パソコンを使用して研修を受講できる「インターネットカレッジ」も用意されており、自身の都合に合わせて時間や場所を自由に設定して視聴することができるようになっています。なお、在宅訪問管理栄養士の認定までの流れや要件は、次のようになります。
[在宅訪問管理栄養士の認定までの流れ] | |
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① 在宅訪問管理栄養士の HPから資料を請求 ※受講料の入金 ② 在宅訪問管理栄養士の「インターネットカレッジ」の受講 事前学習と確認テスト ※ファーストステップ学習 ③ セカンドステップ学習、認定試験の受験の申し込み ④ セカンドステップ学習、認定試験の実施 ⑤ 合格 ⑥ 在宅訪問栄養食事指導実施・実践症例検討報告レポート審査 ⑦ 審査合格 ⑧ 在宅訪問管理栄養士認定 なお、在宅栄養専門管理栄養士の認定期間は5年間とされており、5年ごとに更新する必要があるため注意が必要です。以下、在宅訪問管理栄養士の受験概要を記載しますので参考にしてください。 |
[在宅訪問管理栄養士の認定を受けるための要件] | |
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■認定対象者 ①(公社)日本栄養士会の会員であり、(一社)在宅訪問管理栄養士の正会員で管理栄養士であること。 ②管理栄養士登録から5年以上経過し、病院・診療所・高齢者施設等において管理栄養士として従事した日数が通算で900日(週休2日と仮定して3年6カ月以上の期間が必要)以上の者。 ③学習プログラムの所定の内容を全て修了し、所定の認定試験に合格後、在宅訪問栄養食事指導実施・実践症例検討報告レポート審査を受け合格した者。 ■受講料 (一社)日本在宅栄養管理学会会員:33,800円(税込) (一社)日本在宅栄養管理学会非会員:42,800円(税込)/入会金、年度会費含む ※ 事前学習、ファーストステップ学習、セカンドステップ学習の受講料、テキスト代2,000円を含む ■認定試験料/10,800円(税込) ■認定料/10,800円(税込) ■更新料/7,560円(税込)/5年ごと 出典:公益社団法人日本栄養士会 |
公益社団法人日本栄養士会によると、平成29年までの認定者数は累計で849人と公表されていました。日本在宅栄養管理学会で公開されている直近2017年「第6回の在宅訪問管理栄養士認定試験」の状況を確認すると、受験者数236名、合格者数196名となっていましたので、合格率は83%です。現在までの平均の合格率は公開されていないため、2017年の合格率だけでは一概に難易度が判定できませんが、単年度でみれば2017年度は高い合格率であったことが分かります。
在宅訪問管理栄養士は、施設などで働く管理栄養士の仕事とは違い、療養者のご自宅に訪問してひとりひとりの状態をしっかりと確認して栄養指導に当たるため、その責任の重さを実感するほか、栄養・生活アセスメント能力、病態栄養管理能力、栄養ケア作成能力などが問われ、自身が取り組んだ成果や課題もはっきりと見えてくることでしょう。療養者によって状態も様々なので、決まった方法や考え方だけに固執しない「冷静で柔軟な対応」が求められ、管理栄養士としてのスキルが磨かれます。