栄養士、管理栄養士として働いていて結婚や子育ての事情から退職することになった時など、退職金がどのくらいもらえるのか気になる方も多いことでしょう。
退職金とは、文字通り「退職した労働者に対して支払われる金銭」になりますが、勤務先の就業規則の定めにより、退職金の有無も含め、支給条件などは勤務先によって異なるものです。今回は、公務員や民間の企業などで働く栄養士、管理栄養士の退職金について、相場やどのような仕組みになっているのかなど、記事で分かりやすく解説していきたいと思います。
最初に、退職金に関する前提条件を説明しておきましょう。
労働者が退職金を請求する場合、雇用主が就業規則などで「退職金規定」を設けていることが条件となり、支払いを約束ないしは双方で合意していれば、法的にも権利として発生します。したがって、そうした具体的な定めや合意がない場合、いくら長期間勤務をしても退職金を請求できないのが現状であることを知っておいてください。
次に退職金の相場について見ていきましょう。
公益社団法人の日本栄養士会によると、養成校卒業者の就職先として、栄養士養成課程卒業の産業給食施設(26.2%)、病院(22.1%)、児童福祉施設(20.0%)に入る方が多いことが分かります。勤務先の給料の相場を調べてみると、各社の調査結果や求人情報などを見る限り、あくまでも参考値に過ぎませんが、給食会社は約18万〜22万円、病院は約18万〜27万円、保育園は約18万〜20万円が支給されている様子でした。
また、平成30年賃金構造基本統計調査を確認してみても、栄養士の平均月収は平均36.7歳で約22万円となるので、参考値から大きく外れることもなさそうです。
退職金の算定方法ついては、勤務先によって計算式も異なりますが、基本給+勤続年数+調整費となるのが一般的でしょう。
こうした賃金の相場や算定方法を参考にしながら試算してみると、次のような推定となります。退職時の月給が22万円(37歳)と仮定してみると、在籍期間が15年、自己都合での退職した場合では、22万円 × 12.4 =約272万円となり、これにプラスマイナスの調整が入って退職金を受け取る計算になります。栄養士、管理栄養士の退職金に関する統計データはないので、あくまでも推定であることや、退職の条件によっても金額が変わるものと考えて下さい。
地方公務員の場合は、国家公務員退職手当法に準じたものとなっており、各地方公共団体の条例によって異なりますが、自己都合、定年・勧奨、整理退職などの退職理由や、勤務年数に応じて計算方法は下記のようになります。
民間企業と地方公務員の大きな違いは、民間企業は3年以上働いた人たちが退職金を受け取るケースが多いのに対し、地方公務員は1年で退職しても支給されることでしょう。また、総務省が公開している地方公務員の退職金を見てみると、定年退職による退職金は2,200万円程度が支給されていることが分かりました。
次に民間企業の場合は、東京都産業労働局と厚生労働省の退職金に関する調査データを見ると、前述した地方公務員の試算と同じ条件でみた場合、東京都産業労働局によれば自己都合の退職で在籍期間が15年では230万円でした。試算上では、地方公務員に比べて約40万円程度低いことになります。
また、退職金については、厚生労働省の調査データで30~34年で自己都合だと、2,300万円程度なので、公務員よりも100万円ほど高い計算になりました。
しかし、最終学歴によっても賃金や退職金も異なりますが、高専・短大卒の場合だと大卒の退職金額に比べて約80%低く、高校卒の場合は約70%低くなります。
[地方公務員の退職手当の基本算定構造] |
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退職手当額 = 基本額 + 調整額 基本額 = 退職日給料月額 × 退職理由別・勤続年数別支給率 調整額 = 調整月額のうちその額が多いものから60月分の額を合計した額 |
[地方公務員に関する退職金の支給率] |
支給率は、退職理由別に、勤続年数1年ごとに計算され、条例案における主な退職理由別・勤続年数別支給率は以下の通りです。 |
勤続年数 | 自己都合 | 定年・勧奨 | 整理退職 |
---|---|---|---|
1年 | 0.6 | 1.0 | 1.5 |
5年 | 3.0 | 5.0 | 7.5 |
10年 | 6.0 | 10.0 | 15.0 |
15年 | 12.4 | 19.375 | 23.25 |
20年 | 23.5 | 30.55 | 32.76 |
24年 | 31.5 | 38.87 | 39.624 |
25年 | 33.5 | 41.34 | 41.34 |
30年 | 41.5 | 50.7 | 50.7 |
35年 | 47.5 | 59.28 | 59.28 |
45年 | 59.28 | 59.28 | 59.28 |
出典:地方公務員の退職手当制度の概要(総務省)
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
---|---|---|
1年 | 90,000万円 | 160,000万円 |
3年 | 240,000万円 | 380,000万円 |
5年 | 440,000万円 | 640,000万円 |
10年 | 1,220,000万円 | 1,570,000万円 |
15年 | 2,300,000万円 | 2,840,000万円 |
※若年層は、東京都内の中小企業が対象となります。
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
---|---|---|
20~24年 | 7,800,000万円 | 6,340,000万円 |
25~29年 | 1,399,000万円 | 1,789,000万円 |
30~34年 | 2,110,000万円 | 2,572,000万円 |
35年~ | 1,220,000万円 | 2,173,000万円 |
※ミドル層は、企業規模では絞り込まず、全国調査が対象となります。
出典:
・若年層/東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」
・ミドル層・定年退職/厚生労働省「平成30年 就労条件総合調査(退職給付(一時金・年金)の支給実態)」
あまり認知されていないかもしれませんが、退職金には「退職一時金」と「退職年金制度」といった種類があります。読者の皆さんが直ぐに思い浮かぶのは、一度に全額が支払われる退職一時金でしょう。これとは別に、一定の期間、もしくは生涯にわたり、一定額を年金として支払う退職年金制度があるのです。
退職年金とは、各企業が社員のために任意で導入している年金制度のことで、端的に説明すれば分割して定期的にお金を受け取るような仕組みです。
企業側すると、退職金の支出が重なると経営に影響を与えてしまう可能性があるため、事業の規模が大きくなるほど退職金の拠出も多くなる傾向にありますので、中小企業が積極的に導入している傾向があると言えるでしょう。
また、退職年金には、掛け金は企業側が負担して加入者が拠出することも可能な「確定給付型企業年金制度」や、掛け金は企業と社員が折半して負担する「厚生年金基金制度」、掛け金は原則企業型負担で一定額まで企業が保証して残りは景気によって変動する「キャッシュバランスプラン」などの種類があります。
こうした「退職一時金」や「退職年金制度」は、いずれも導入していない企業もあれば、両方の制度を併用している企業もありますので、企業によって対応は異なります。そして、民間の企業の場合、基本的に3年以上働いた人たちが退職金の支給対象になっていることが多く、3年以内では退職金の支払いは期待できなと考えておくべきでしょう。退職金の制度や金額もさることながら、給与や賞与、各種手当のあらゆる面において、やはり地方公務員の栄養士の賃金が安定しているは確かです。
退職金は、法律で義務付けされた制度ではないため、必ずもらえる訳ではありません。
また、退職金制度が設けられていた場合でも、解雇などの場合には減額もしくは支給されない場合もあるでしょう。
退職金制度を調べるには、勤務先の就業規則を確認することになりますが、会社は労働者が就業規則の周知が義務化されており、本来は「書面にして従業員に交付する」「事業所の見やすい場所へ掲示するなど備え付ける」「パソコンなどにデジタルデータとして記録し、従業員がいつでも閲覧できるようにする」にするのが一般的なので、もしも見たことがなければ会社に訪ねることを遠慮する必要はありません。なお、気をつけたいこととしては、退職金制度が導入されていれば退職金は支払われますが、就職した時は制度があっても、働いている間に経営危機に陥り制度導入を取りやめてしまうケースもあり、このような場合は残念ながら退職金を受け取ることは難しくなるでしょう。
退職金に税金がかかるのか気になっている人も多いでしょう。
退職金にかかる税金については、長年の功労に報いるために、他の所得より優遇されており、分離課税となっています。
計算方法としては、収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引いて、残りの金額となる2分の1に対して税率を掛けて計算します。
また、退職所得控除額の計算については、勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げ、退職所得控除額の最低額は80万円です。
例えば、勤続30年程度で約2,000万円の退職金を受け取ったと仮定した場合、2,000万円から退職所得控除額の1,500万円を差し引くと残りが500万円になりますので、そこから半分の250万円に対して税率を掛けることになります。
なお、退職所得は分離課税なので、他の所得と切り離して計算することになるので、覚えておきましょう。なお、例外的なケースとなりますが、退職の原因が障害者となった場合は退職所得控除額に100万円が上積みされるほか、死亡が原因で退職した場合には、所得税も住民税も退職金には課税されず、相続税の対象となるので、法定相続人一人につき、500万円が非課税となります。