現在までに調理師免許を取得した人は、厚生労働省「衛生行政報告例」によると、昭和34年から平成29年までの累計にして3,817,774人いるそうです。毎年多くの方が調理師免許の試験を受験していますが、直近となる平成25年~29年までの5年間では、平均にして36,000人の方が調理師免許に合格していることが分かりました。こうした調理師免許は、飲食店などで働く場合や、飲食店を開業するのに必須の資格ではありませんが、名称独占資格といって免許を持っていなければ「調理師」を名乗ることは許されていません。つまり、公には、調理師とは、免許資格者であることを示しています。今回は、調理師を目指す方に向けて、調理師として活躍するためには、「何が必要なるのか」「どのような経験を積むことでキャリアップが望めるのか」などを記事で紹介していきたいと思います。
調理師が活躍する職場は、学校、病院などの集団給食、食堂、旅館などの営業給食、料亭、喫茶店などの料食主体の外食や内食を対象とする宅配業など、広範多岐に亘ります。また、調理師は、食材に対する知識や調理方法、栄養管理などを考慮して調理する必要があり、何よりも美味しい料理を提供することが主な仕事内容です。しかし、調理師として活躍するためには、見習いとして下積みを重ね、一人前の料理人として活躍するまでには長い時間をかけて技術を磨いていく必要があり、調理のほかにも配膳、掃除、皿洗いなども一通り経験しなければなりません。
そして、調理師としてキャリアアップを目指すのであれば、調理師の上級資格となる「専門調理師·調理技能士」や、栄養の指導などができるようになる「栄養士」「管理栄養士」の資格を所得すると、調理師としてはもちろんのこと、教員、講師などで活躍する道も開けるようになるでしょう。料理の業界で働くなら、和洋折衷とジャンルによって学ぶことが異なりので、将来はどのようなシェフもしくは仕事や職場を望んでいるのか、早期に目標をしっかりと定めておきたいところです。
次は、調理の基礎となる「仕込み」と「調理の技術」について、一般的にどのようなことが求められるのか、具体的に紹介してみたいと思います。
調理師が行う仕込みとは、営業時間中に料理をスムーズに提供するため、納品された食材の仕分けをはじめ、野菜などの皮むきや洗いなどの準備、野菜、肉類(調理法にもよる)、魚の三枚おろしなどの切り出し、スープやソースなどを煮込むといった火入れ、火入れしたソース類などのパック、仕込んだ食材の整頓など、調理の準備に必要な時間がかる作業を前日の深夜や当日の早朝などに行うことを意味します。仕込みは料理の全てを決める重要なプロセスとなりますので、食材の下処理は見習いの調理師が担当し、味付けが必要な仕込みは経験のあるベテラン調理師が行うのが一般的であることも覚えておいてください。
調理の基本的且つ大切な要素として、調理道具の選び方や使い方をはじめ、火入れの方法や、盛り付けなどが挙げられるでしょう。特に料理人の多くが深いこだわりを持つ「包丁」は、選び方や使い方によっても料理の仕上がりを大きく変える調理道具の1つです。例えば、和食の包丁であれば、野菜用の包丁と使われる「薄刃包丁」、魚や肉を捌く時に使う「出刃包丁」、刺身を引くのに適した「柳刃包丁」などの種類があり、包丁の使い方を先端部分から柄に向かって説明すると、魚をさばくときや肉などの筋切りをする部分「切っ先·そり」、魚、肉、野菜を引き切り、押し切りするときに使う「刃先(刃線)」、フルーツや野菜を剥くときに使う「刃元」、ジャガイモの芽を除いたりする際に使う「あご」、包丁の背の部分ではアジやサンマサヨリなどの薄皮を引いたり、肉を叩いたり、ゴボウの皮むきに使う「みね」など、調理をする際に使い分けたり、使いこなしたりできなければなりません。また、ミシュランガイドに登場するような有名レストランの世界では、素材への火入れを0.1℃単位で厳密に管理するフレンチのシェフもいますので、火入れの重要性や料理の味に影響を与えることが分かるでしょう。そして、調理は見た目の良さも重要で、盛り付けも調理師がこだわることの1つです。
料理の盛り付けは「彩り」「高さ」「バランス」の3つのポイントを大切にしますが、「彩り」であれば緑黄色野菜などを使って赤·黄·緑·白·黒の5色を取り入れたり、「高さ」は器の使い方に高低差をつけて料理を美しく見せたり、「バランス」は配色や配置を考えながらピンセットを使って数ミリ単位で盛り付けたりするなど、料理がもっとも美味しく見える工夫がなされます。
調理師の見習いとして覚えなければならないことは、なにも前述したような調理の技術だけでなく、皿洗いやゴミの片付け、飲食店であれば開店前後の店内の掃除も調理師の業務内容に含まれてきます。調理師として、調理場の衛生面を保つことも大事な仕事の1つだからです。こうした皿洗いや片付けなどは見習いの調理師が行うことが多く、いわゆる下積み期間を経験して初めて食材を触らせてもらえるようになるのが一般的な流れになるでしょう。下積みとはいえ、清掃を怠ったり、食材を雑に扱ったりして、もしも食中毒などを引き起こせば、お店の営業停止処分や調理師免許の停止措置を受ける場合もあるので、個人的な失態では済まなくなることもあるので、十分に気をつけなければならない仕事です。調理師である以上、どのような立場であっても徹底した衛生管理が求められるので、見習いのうちからしっかりと身につけておかねかればなりません。
飲食店などによっても異なりますが、調理師の見習いとして入社した場合には、最初に顧客の接客を行うホール業務から開始することも多いでしょう。
その店がどのような料理を提供しているのか把握してもらうこともありますが、厨房にはレシピや調理方法が詰っているので、見習い調理師の仕事の様子を見ながら厨房に入れる時期を判断する経営者がいるのも珍しくありません。このような場合には、ホール業務を通じて、手際の良さや仕事に対する態度も確認することになるでしょう。
調理師の見習いにとっては、自分が将来提供することになる顧客について、どのような料理を好んでいているのか、何を求めてお店に足を運んでくるのか、ホール業務の接客の中
からしっかりと学ぶことも大切です。
飲食の専門店などで働く方が多い職業ではありますが、宿泊施設の厨房、学校の給食や病院などで食事を提供する調理場に入ることもあるでしょう。ここでは、調理師が活躍している代表的な職場の例をいくつか紹介してきたいと思います。
調理師の腕を磨くなら、和食、フレンチ、イタリアン、中華など、飲食の専門店で働く方が多く、お店も様々なですが、料理の味もさることながら、サービスの質に対する拘りもひときわ強い専門店が職場として挙げられるでしょう。ほかにも、ファミレスや居酒屋など、料理の安定した品質や衛生管理、生活者が気軽に利用できるサービスを重視した店などがあり、調理師が活躍できる飲食店の形態も様々です。
外資の有名ホテルや地域の特色ある旅館などの宿泊施設においても、調理師が活躍する場があります。宿泊施設とはいえ、料理を楽しみにしている顧客は多く、専門的に負けず劣らずで、調理師の腕が要求されることでしょう。また、宿泊施設といった特性上、飲食店は夜に休むことが多いものの、調理場が24時間稼働しているところもあり、夜勤をこなす調理師もいるのが特徴です。
学校の給食室では、子供たちに美味しい給食を作って昼食を提供する仕事も調理師が対応します。大人になっても学校給食の味は覚えているもので、子供たちの成長には欠かせない大事な食生活を支える仕事です。給食設備が学校にある場合や、地域の給食センターで調理して学校に配布するパターンがありますが、基本的には朝から夕方まで働き、土日休みになることが多いのが特徴です。
介護が必要な高齢者や病気をした患者の食生活を支えるため、病院や福祉施設などの調理場にも調理師が働いているケースがあります。食事療法などに配慮した食事を提供する場合、栄養管理の役割も担うことになりますが、患者が美味しく食事できるように拘って作らなければなりません。栄養士の献立に合わせて調理するにしても、せっかく調理しても患者が食べなければ意味がありませんので、美味しく調理する方法を工夫することが求められるでしょう。